チャット相談システムに必要な機能とは?無料相談サイトを10年以上運営して分かった設計を紹介

「チャット相談を始めたいけれど、どんな機能が必要なんだろう。」
相談のオンライン化を考えるとき、多くの団体がここで立ち止まります。
チャット相談に必要な機能を検索してみると、営業やカスタマーサポート向けのチャットツールの紹介記事が多く出てきます。しかしながら、「お問い合わせに答えるための機能」と「人の悩みを受けとめるための機能」では、目的も安全設計も大きく異なります。
私たちつくりばは、無料相談サイト「ココトモ」を運営しており、チャット相談を10年以上受けてきました。これまでに寄せられた相談は累計15万件以上、登録しているボランティア相談員は2,000名以上になります。
その運営経験を踏まえると、一般的なチャットツールの「機能一覧」だけでは、相談サービスに必要な要件を整理しきれないと感じます。相談には、相談者の安全を支える設計と、相談を受ける相談員を守る設計が必要です。そして、そのほとんどは華やかな「機能」というより、人を守るための地道な「仕組み」です。
この記事では、私たちが積み上げてきた地道な仕組みまでを含めた、チャット相談に必要な機能をご紹介いたします。
尚、この記事で扱うのは、AIが自動で回答するチャットボットではなく、相談員が文章で相談に応じる「有人型」のチャット相談です。私たちが運営するココトモは主に、お互いの都合に合わせて返信する非同期型ですが、リアルタイム型にも共通する設計を含めてお伝えします。
※同期型か非同期型か、誰のどんな相談を受けるか、といった作る前に決めておきたい方針は、別記事「相談サービスの作り方」で解説しています。本記事は、その方針が定まった次の段階——必要な機能を整理する話です。少しでも参考になれば幸いです。
チャット相談に必要なのは「機能」と「運用体制」の両輪
最初にお伝えしておきたいことがあります。チャット相談に必要なものには、システム上の「機能」と、その機能を実際に働かせるための「運用体制」の2つがあります。
機能とは、申込フォーム、メッセージの送受信、相談員の指名、AIによる深刻度の判定、通報ボタン、データの集計といった、システムに実装する仕組みのことです。一方の運用体制とは、それを動かす「人」と「手順」のことです。たとえば、通報が来たあとに誰がどう判断するか。相談員が困ったときに運営が相談に乗る窓口があるか。相談マニュアルは整備されているか。深刻な相談を最終的に誰が判断し、どこへつなぐか。こうした部分です。
通報ボタンを付けても、通報後の判断者と手順がなければ、安全は守れません。機能だけを並べても相談サービスは動かず、体制だけでも回りません。そして、この記事の後半でご紹介するココトモの工夫は、その多くが実は「運用体制」——機能を動かす人と手順——の話です。機能と運用体制の両輪をセットで考えること。これこそ、一般的な機能一覧との一番の違いだと考えています。
まず押さえたい基本機能(要件定義の出発点)
特徴的な工夫の話に入る前に、多くの相談システムで検討が必要になる「土台」を整理しておきます。開発を相談するときに、何を伝えればよいかの出発点としてお使いください。
相談者まわりの基本機能
- 会員登録(会員登録制の場合)
- 受付時間の案内と、緊急時の案内
- 利用規約・個人情報の取扱いへの同意
- 相談の申込みフォーム
- 相談内容にあわせた自動案内通知
- 相談開始後のメッセージ送受信と、新着返信の通知
- メッセージの下書き、編集
- 相手のメッセージにたいする通報
- 相談期限のリマインド
- 相談の延長申請
- 相談の終了(両者合意、期限切れ、など)
- 相談終了後アンケート
- 相談履歴一覧
- 過去に相談した相手への再相談
相談員まわりの基本機能
- プロフィール設定
- 守秘義務誓約書への同意
- 新着相談通知
- 相談の深刻度判定(AI判定)
- 相談マッチング
- 相談担当の受諾・辞退
- 相談開始後のメッセージ送受信と、新着返信の通知
- 作成した回答内容へのAI評価(※AIはあくまでサポート)
- メッセージの下書き、編集
- 相手のメッセージにたいする通報
- 運営へのヘルプ
- 相談期限のリマインド
- 相談の延長
- 相談の終了(両者合意、期限切れ、など)
- 相談終了後アンケート
- 運営からの対応フィードバック
- 相談履歴一覧
- 相談者には見えない内部メモ、引き継ぎメモ
- 過去の相談者へのアフターフォロー
運営まわりの基本機能
- 相談員アカウントと権限の管理
- 相談の深刻度判定(AI判定)
- メッセージの規約違反判定(AI判定)
- 全相談の進行状況、対応漏れなどの検知
- 相談員からのヘルプ対応
- 相談員への対応フィードバック
- 相談引き継ぎサポート
- 相談員マニュアル
- 相談データやアンケートデータの集計、問題検知
- 通報や外部機関への接続が必要な相談へのリファー対応
- 不適切利用への対応
- 利用規約や守秘義務誓約書の同意ログ
- 相談者からの問い合わせ対応(チャットボットの検討など)
すべては記載しきれませんが、大きな機能としてはこのようなものが必要になります。
ここからは、これらの土台の上で、私たちがココトモで特に作り込んできた機能や運営体制をご紹介します。立場の異なる相談者・相談員・運営者という3者の視点で見ていきます。
相談者:迷わず、安心して相談できるか
相談までの入口を、迷わせない
一次経験からお伝えすると、相談者は「どのページで何をすればいいか分からない」というだけで離脱します。相談の手前の導線を一段やさしくすることは、離脱を減らすうえでとても重要です。スマートフォンからの利用を前提に、最初の一歩を軽くする設計を心がけたいところです。
取得する情報と、見える相手を、先に伝える
もうひとつ大切なのが安心感です。
相談サービスを利用するにあたって何が記録されるのか、誰が見るのか、匿名で相談できるのか。こうした点があらかじめ明示されているだけで、相談者は最初の一歩を踏み出しやすくなります。
いつ返事が来るかを、先に伝える
非同期型のチャット相談では、相談者は「送ったのに、まだ返事が来ない」と不安になりがちです。だからこそ、受付の時間帯や、返信までにかかる目安、すぐには返事ができないことを、相談を始める前に伝えておくことが大切です。あわせて、命に関わるような緊急時には公的な相談窓口を頼ってほしいという案内も、最初に示しておきます。期待値と緊急時の行き先を先に伝えるだけで、相談者の不安はずいぶん和らぎます。
相談する相手を、相談者が選べるようにする
相談は、相手との相性が大きく影響します。だからこそ、相談者の側が相手を選べたり、相談内容に合った相談員とつながれたりする仕組みがあると、最初のミスマッチがぐっと減ります。
ココトモでは、相談者が相談員を指名して相談することもできますし、指名しない場合も、相談内容や状況に合った相談員へつながるようにしています。さらに、しばらくログインのない相談員は指名の候補から自動で外し、「申し込んだのに相手が不在だった」を防ぐ工夫もしています。相性の合う相手と話せることは、それだけで相談者の安心につながります。
一度きりで終わらせない(延長・再相談・その後の見守り)
相談は、一回のやり取りで終わるとは限りません。「もう少し話したい」「また同じ人に相談したい」という気持ちに応えられるかどうかも、相談者の安心を大きく左右します。
ココトモでは、相談に期限を設けつつ、相談者から延長を申請して、同じ相談員と続けて話せるようにしています。また、過去に相談した相談員へ、あらためて相談することもできます。さらに、相談が終わったあとにも、相談員から「その後、いかがですか」とそっと声をかけるアフターフォローの仕組みを置いています。終わったあとのつながりまで含めて設計しておくことで、相談は“その場限り”ではなく“また頼れる場所”になっていきます。
担当が見つからない時も放置しない
相談員とのマッチングで成り立つサービスでは、すぐに担当が決まらない相談も出てきます。ここを放置すると、相談者は「無視された」と受け取ってしまいます。
ココトモでは、相談前と相談申込完了時に「一定期間が過ぎても担当の相談員が見つからなかった場合の案内」をお伝えするようにしています。担当が見つからない可能性があるので、相談開始前から他の相談方法の並行利用をご案内するようにしています。実際に担当の相談員が見つからなかった際は、相談者へ運営からのお詫びを通知するほか、あらためて他の相談方法をご案内する導線を用意しています。
相談員:一人で抱え込ませない
相談サービスが続くかどうかは、相談を受ける相談員の負担をどう支えるかによって大きく左右されます。ここが最も重要な要素であり、悩み相談サービスには欠かせない機能です。
いつでもヘルプを出せるようにする
NPOや行政が運営する相談サービスにおいても、相談員の多くは心理職ではない方々です。重い相談を受け続ければ、「この対応で合っているだろうか」「自分一人で抱えるには重すぎる」と感じる場面が必ず出てきます。だからこそ、相談員を一人にしない仕組みこそが、相談サービスでもっとも大切なことだと私たちは考えています。
ココトモには、相談員が運営スタッフに1対1で相談できる専用の窓口や、相談員同士が「この対応で迷っている」と相談しあえる専用の掲示板があります。さらに、傾聴の技術から深刻な相談への向き合い方まで、いつでも閲覧できる相談マニュアルや講座動画を整備し、その中でしんどい時は無理をせず、対応を休んだり運営を頼ったりしてよいことを繰り返し伝えています。深刻な相談の場合は、専用チームへ引き継げる導線も用意しています。相談員が燃え尽きてしまう設計のままでは、どんなに良いシステムを作ってもサービスは続きません。「相談員が疲弊しない運営」こそが、相談サービスの生命線です。
無理なく担当できるようにする
相談員を守るうえでは、「受けすぎない」ことも大切です。すべての相談を抱え込めば、どんなに熱意のある相談員でも続きません。また、AIなどを活用して相談の深刻度が分かるようにする対応も効果的です。
ココトモでは、相談が届いた際にAIが深刻度を判定し、色分けしたり専用チームに割り振られたりする仕組みが整っているため、相談員は自分の状態にあわせて無理のない相談を担当することができます。また、AIが相談内容から相談者の心理状態を推測して表示する機能なども整備されています。そういった情報に加えて、最後は自分が担当する相談を自分で選択できるため、ミスマッチが起きづらいです。
返信の質をAIがそっと後押しする
相談員は、対応に慣れないうちは「この返信で大丈夫だろうか」という不安を抱えやすいです。AIを活用して「作成中の返信内容が傾聴できているか」などの判断材料を増やすことで、相談員も安心して相談対応をおこなうことができます。
ココトモでは、相談員が希望すれば、初回の返信を送る前に、傾聴の観点から返信文をフィードバックするAIの補助を利用することができます。送信を止めたり検閲したりするものではなく、送信前のセルフチェックです。また、AIが相談文から読み取れる相談者の心理状態や「避けたい接し方」を、参考情報として相談員に添える機能もあります。いずれも画面には「AIによる回答のため正確性を保証するものではありません」と明示しています。AIはあくまで、人の判断を支える補助です。
運営がフィードバックする
相談員が安心して続けるには、「自分の対応はこれでよかったのか」を一人で抱えないことも大切です。ココトモでは、運営が相談員の対応にたいしてフィードバックを返す機能と体制を設け、相談員が少しずつ自信を持てるように支えています。
運営者:安全と品質を、仕組みで支える
通報は「その後」まで設計する
運営者の視点で欠かせないのが安全設計です。まずは相談者・相談員どちらも利用できる通報機能。通報は、通報ボタンを付ければ安全、ではありません。通報が来たあと、誰がどう判断し、どう対応するのかまで決めて、はじめて機能します。可能な限り基準を具体化したり、ダブルチェックをおこなったりするなど、属人的にならないようにする工夫が必要です。
深刻な相談を見逃さない(最後は人が判断する)
オンラインで広く相談を受ければ、自殺関連や虐待関連などの深刻な相談が寄せられる可能性が高いです。ココトモでも相談全体の約17%が深刻な相談に該当します。ここを現場の相談員の判断力だけに委ねてはいけません。
相談が申込された段階でAIが深刻度の一次チェックをおこない、深刻度の高い相談を運営チームに通知しています。ただし、深刻度を最終的に確定し、どう対応するかを決めるのは人です。ここでも基準の具体化をしたりダブルチェック体制を設けたりして、属人的にならないような工夫が必要です。
高リスクの相談は、日次で再確認する
相談申込時点では深刻ではなかった場合でも、対応している最中に深刻化するケースがあります。だからこそ、一度の判定で終わらせない設計が必要です。相談員の自己申告ヘルプだけに頼るのではなく、機能や仕組みによって運営側からフォローできる機能や体制を構築することが望ましいです。
ココトモでは、受付時のリスクが高く、対応が続いている相談を、日次であらためてAIが再確認して運営チームに知らせる仕組みを動かしています。受付時には見えなかった危険のサインを、対応の途中で拾うための多層の備えです。
深刻な相談は、専用チームが対応
深刻度の高い相談は、心理職を含めた専用チームが対応することが望ましいです。必要に応じて、相談者の意向を確認しながら、外部の支援先をご案内・連携することがあります。法令に基づいた対応が必要な場合にも備え、機能やマニュアルを整備しておく必要があります。
※深刻な相談に備えた運営設計は、別記事で詳しく扱います。
対応漏れや返信漏れを生まない設計
どれだけ相談員が頑張っても、対応の行き違いや見落としは起こります。だからこそ、運営が全体を見渡し、未対応のまま止まっている相談や、長く返信が滞っている相談を見つけてフォローする仕組みが必要です。ココトモでも、対応が滞っている相談を運営が把握し、必要なフォローが出来るようにしています。
安全のためのログ管理
安全な運営は、地道な記録の上に成り立ちます。たとえば、相談員の守秘義務への同意記録を残したり、チャット相談のメッセージ編集・削除は機能をつけるだけでなく「いつ・何が変更されたか」という記録をすべて残したり、こういったログ管理を徹底しています。いざというときに説明責任を果たせる状態にしておくことが、相談サービス全体の安心につながります。
AIを相談に使うなら、データの扱いを先に決める
ここまでAIによる補助をいくつか挙げてきましたが、相談業務にAIを使うときは、判定の精度だけでなく、AIへ送る情報の扱いを必ず先に整理してください。
具体的には、AIへ送信する情報の範囲、個人を特定し得る情報の扱い、委託先での保存や学習利用の有無、利用者への説明、アクセス権限などです。AI機能は、個人情報やセキュリティの設計と切り離して導入できるものではありません。「便利だから入れる」ではなく、相談という繊細な情報を扱う前提で、利用規約やプライバシーポリシーへの記載まで含めて設計する必要があります。
私たちもこの点は、個人情報の設計と一体で考えています。どこまでをAIに任せ、どこからを人が担うのか。その線引きを決めておくことが、安心して使えるAI活用の出発点になります。
※個人情報・セキュリティの具体的な設計や、相談業務へのAI活用は、別記事であらためて詳しく扱います。
相談データを、改善に活かす
相談のデータ集計は後回しにされがちですが、実は運営改善の起点になります。どのような相談が増えているのか、どのような対応をおこなうと相談者の満足度が高くなるのか、などの傾向が見えると、相談員の研修内容や、案内すべき情報、人員配置の判断ができるようになります。
ココトモでは、相談が終わったあとに相談者へアンケートをお願いし、満足度だけでなく「孤独のケア度」「気持ちの変化度」「行動の変化度」などを匿名で伺っています。相談データ、相談員データ、相談後のアンケートデータ、こういったさまざまな情報を組み合わせて分析することで、相談員に質の高い参考情報を提供することができます。ココトモでは月次で相談員全員に向けて全サービスのさまざまなデータを共有しています。
尚、集めるデータはサービスの目的や理念から逆算したものである必要があります。自分たちがどのような価値を提供したいのか、そのためのマイルストーンとなるデータを集めて、集めて終わりにせず、改善に使えるかたちで設計しておくことが大切です。
※相談データの具体的な活用方法は、別記事で掘り下げます。
機能は「盛りすぎない」ことが大切
ここまで機能を挙げてきましたが、最初から全部をそろえる必要はありません。
あれもこれもと載せると、相談者にとっても相談員にとっても使いにくくなります。
まずは本当に必要な機能から小さく始めて、運用しながら育てていくのが良いです。ここまでにお伝えした内容のうち、相談員とサービス全体の安全を守る機能と設計は後から付け足すのが最も大変な部分のため、この土台を最初に押さえることをおすすめします。
まとめ:相談サービスに必要なのは、安全を守る機能と設計
チャット相談の機能を考えるとき、つい一般的なチャットツールの機能一覧から考えたくなります。けれど本当に必要なのは、相談者が安心でき、相談員が抱え込まず、運営者が安全に支えられるための機能と、それを働かせる運用体制です。
相談者に応答できない時に放置しない。相談員を一人で抱え込ませない。深刻な相談を仕組みで受けとめ、最後は人が判断する。集めたデータを、次の改善につなげる。これらはどれも、システムを用意するだけでは動きません。それを支える運用体制——人と手順——があってはじめて、相談サービスは安全に続いていきます。
私たちつくりばは、こうした設計をココトモで10年以上、実際に運営しながら積み重ねてきました。これからチャット相談を立ち上げる方の、少しでも参考になれば幸いです。
相談サービスの立ち上げを検討中ですか?
私たち「つくりば」は、Webで居場所をつくる会社です。自社で相談サービスを10年以上運営してきた知見をもとに、相談サービスの開発・運営を支援しています。ぜひ私たちの支援内容をご覧ください。
つくりばについて知る