相談サービスの作り方|NPO・支援団体がオンライン相談を立ち上げる前に考えること

この記事は、NPO・支援団体・自治体などで、相談窓口のオンライン化や新しい相談サービスの立ち上げを検討している担当者向けに書いています。相談者個人への医療的・心理的な助言ではなく、相談サービスを安全に設計・運営するための考え方を整理する記事です。
「相談を、オンラインでも受けられるようにしたい」
NPO・支援団体や自治体のご担当者から、いま最も多くいただくご相談のひとつです。
世の中には「相談を受けるためのWebサービスをどのように作り、どのように運営していくのか」を具体的に書いた情報がほとんど見当たりません。実際に「相談サービスの作り方」で検索してみると、NPO法人の設立手続きの話か、大企業・行政向けの高価なシステム製品の紹介ばかりが出てきます。
私たち合同会社つくりばは、無料相談サイト「ココトモ」を10年以上運営してきました。これまでに寄せられた相談は累計15万件以上、登録しているボランティア相談員は2,000名以上、サイトには月間約70万PVが集まります。
この記事では、実際の相談サービスを運営する中で得られた知見をもとに、相談サービスを立ち上げる前に考えておきたいことを、必要な機能・体制・安全設計・費用の目安まで、できるだけ具体的にお伝えします。
これから相談窓口をオンライン化しようと考えている団体が、「何を、どの順番で決めればいいのか」を見通せるようになることを目指して書いています。立ち上げてから後悔しがちなポイントを先回りでお伝えしているので、少しでも参考になれば幸いです。
そもそも「相談サービスのオンライン化」とは
ひとことで「オンライン相談」と言っても、実際には方式がいくつもあります。まずはここを区別しておくと、後の意思決定がぐっと楽になります。
- 同期型(リアルタイム)
ビデオ通話や、相談者と相談員がリアルタイムでやり取りするライブチャットなどの形式。「いますぐ話したい」に応えられる一方、相談員が常時待機する体制が必要です。 - 非同期型(時間差)
LINEやメールのように相談者と相談員がお互いの都合に合わせて返信する形式。相談員の負担を平準化できるため、ボランティアや少人数でも回しやすいのが特長です。 - 予約型
あらかじめ枠を予約してもらい、ビデオ通話や電話で対応する形式。カウンセリング等でよく見られるとおり、シフトが決まっている相談員が対応する体制に向いています。 - 掲示板・ピアサポート型
当事者同士が支え合う場をつくる方式。相談サービスというよりコミュニティサービスに近くなり、運営の論点が変わります(この点は別記事で詳しく扱います)。
ココトモは、このうち主に非同期型のチャット相談を軸に運営しています。
なぜそうしたのか——そこには、立ち上げ前に決めておくべき論点が詰まっています。
順番に見ていきましょう。
相談サービスを立ち上げる前に決めておきたい5つのこと
機能やツールは、いちばん最後に決めます。先に決めるべきは、もっと手前の「方針」です。ここが曖昧なまま開発に進むと、作り直しになったり、現場が疲弊したりします。私たちが相談サービスを10年以上運営してきて「最初に決めておけばよかった」と感じるのは、以下の5点です。
①誰の、どんな相談を受けるのか(対象と範囲の線引き)
「困っている人みんな」を対象にすると、現場は必ず行き詰まります。対象者(年代・属性・地域)と、受ける相談の範囲を最初に決めましょう。とくに大切なのが「受けない相談」を決めることです。
たとえば医療的な判断、法的な係争、命に関わる緊急性の高い相談などは、自分たちが一次対応する範囲とするか、専門機関へつなぐ範囲とするかなどを立ち上げ前に線引きしておきます。この線引きが、後述する相談員の育成内容や、深刻な相談への対応フローにも直結します。
②同期か、非同期か(運営体制に直結する分岐)
「いますぐ話せた方が親切では」とリアルタイム対応を検討される団体が多いです。気持ちはとてもよくわかります。ただ、同期型は「相談が来た瞬間に、対応できる人がいる」状態を(相談者のニーズで考えるなら24時間365日)つくり続けるという、運営上もっとも重い約束をすることになります。
ココトモが非同期のチャットを軸にしているのは、ボランティア相談員や運営スタッフたちが無理なく持続的に活動できる環境を守るためです。「お返事はすぐにはできないこと」を最初から設計に織り込むことで、相談員一人ひとりの負担を平準化し、長く続けられる仕組みにしています。スピードと持続性は、しばしばトレードオフになります。
③相談員は誰がやるのか(育成とケアまで含めて)
相談サービスは、システムを作って終わりではありません。相談を受ける「人」をどう確保し、育て、守るかが運営の中心となります。職員が対応するのか、有資格者に依頼するのか、ボランティアを募るのか。それぞれに募集・研修・シフト・品質管理・そして相談員自身のケアの設計が必要になります。
見落とされがちなのが、この最後の「相談員のケア」です。つらい相談を受け続けると、相談員の側が消耗していきます。私たちが運営するココトモでは、相談員同士が支え合える仕組みづくりや、一人で抱え込ませない仕組みづくりを積み重ねてきました。相談員が燃え尽きてしまう設計のままでは、どんなに良いシステムを作ってもサービスは続きません。「相談員が疲弊しない運営」こそが、相談サービスの生命線です。
相談員が運営スタッフに1:1で相談できる専用の相談室。相談員同士が相談しあえる専用の掲示板。日頃から相談員同士がチャットや通話で交流できる専用SNS。こういった環境を整えています。
また、AIを活用して、届いた相談の深刻度合いを判定し、深刻度ごとに対応できる相談員を分類したり相談を色分けしたりする機能や、投稿規約に違反する内容ではないかを検知する機能などを取り入れています。
※ただし、AIはあくまで見落としを減らすための補助です。AIの判定だけで対応を決めるのではなく、最終的には運営側が確認し、あらかじめ決めたフローに沿って対応します。
④深刻な相談に、どう備えるのか(対応フローを最初に決める)
オンラインで広く相談を受ければ、必ず、深刻な相談に出会います。希死念慮や、虐待、暴力に関わるような相談です。ここで大切なのは、現場の相談員に判断を丸投げしないことです。
「どういう内容のときに、誰が、どこへつなぐのか」というエスカレーションやリファーのフローを、マニュアルとして用意することが大切です。自殺予防、虐待、DV、子ども・若者支援、精神保健、地域の公的窓口、緊急時の警察・救急など、相談領域に応じた外部連携先をあらかじめ整理しておきます。たとえば、厚生労働省の「まもろうよ こころ」には、電話・SNSなどの公的な相談窓口がまとまっています。こうした連携先を一覧にしておき、相談員が迷わず動けるようにしておきます。これは相談者を守るためであると同時に、対応した相談員を守るためでもあります。安全に関わるこの設計は、機能の前に決めるべき優先事項です。
深刻度の高い相談や、相談者本人が希望した相談を、通常の相談員ではなく専門のチームが対応する窓口(ホットライン)へ自動で振り分ける仕組みにしています。専門のチームのスタッフたちは悩みを受け止めながら相談者の状況や使える資源を確認し、場合によっては外部の支援機関へのリファーをおこないます。こうした体制を仕組みとして用意しておくことで、相談者の安全と、対応する相談員の安心の両方を守れます。
⑤記録・個人情報・セキュリティの方針
相談内容には、健康状態、家庭環境、学校生活、福祉・医療に関する情報など、非常に繊細な個人情報が含まれることがあります。内容によっては、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当する可能性もあるため、通常の問い合わせフォーム以上に慎重な設計が必要です。
「とりあえず始めてから考える」がいちばん危ない領域です。情報の共有範囲を制御できる設計と、記録・バックアップ・アクセス権限の方針を立ち上げ前に決めておきましょう。私たちは行政案件で求められるセキュリティ要件を踏まえた設計・開発にも対応してきましたが、ここは後から作り直すのが最も大変な部分でもあります。
相談サービスに必要な機能(3者の視点で考える)
方針が決まったら、ようやく機能の話になります。相談サービスには、立場の異なる3者が関わります。それぞれの視点で必要な機能を考えると、抜け漏れが減ります。
迷わず相談を始められる入口・導線
匿名性・安心感(何が記録され誰が見るかの明示)
スマホでストレスなく使える
相談の割り当て・担当のマッチング
対応中・対応済みの管理
一人で抱え込ませない連携
深刻な相談にすぐ動ける導線
相談員の管理(登録・シフト・品質)
通報・ブロックなどの安全管理
相談データの集計
一次経験からひとつお伝えすると、相談者は「どのページで何をすればいいか分からない」というだけで、想像以上に離脱します。相談の手前の導線を一段やさしくするだけで、実際に相談につながる数は変わります。機能を盛ることより、最初の一歩を軽くすることの方が、ずっと効きます。
尚、「相談データの集計」は、後回しにされがちですが、実は運営改善の起点になります。どんな相談が増えているのかが見えると、相談員の研修内容や、案内すべき情報、人員配置の判断ができるようになります。集めて終わりにせず、改善に使えるかたちで設計しておくことをおすすめします。
参考までにココトモでは、相談の「満足度」だけでなく、孤独感が和らいだか・気持ちや行動に変化があったか、もう一度相談したいと思ってもらえたか、相談員が最初の返信をするまでにどれくらいかかったか——など、さまざまな切り口で相談データを分析できる仕組みを整えています。こうした指標が見えてはじめて、「次に何を改善すべきか」を具体的に話し合えるようになります。
運営してきたから分かる、ありがちな失敗
たくさんの団体の相談に乗る中で、繰り返し見かける「つまずき方」があります。先回りでお伝えします。
- 機能を盛りすぎる
あれもこれもと載せた結果、相談者にとっても相談員にとっても使いにくくなるケースは多いです。最初は小さく、本当に必要な機能から始めるのが良いです。ココトモも立ち上げ時はメール相談サービスのみから始めました。 - 相談員のケアを設計しない
立ち上げの熱量だけで走り出すと、半年後には相談員が消耗して続かなくなります。関わる全員が安心して関われる設計を後回しにしないことが大切です。 - 深刻な相談のフローが未整備
いざという時に現場が固まってしまい、今すぐ支援が必要な相談者が支援を受けられない状況に陥ってしまいます。安全に関わる設計は、機能より先におこなうことが大切です。 - 「通報ボタンを付けたから安全」だと考えてしまう
通報は仕組みの一部にすぎません。通報が来たあと、誰がどう判断し対応するのかまで決め、マニュアルに落とし込まれていてはじめて機能します。 - 作って終わりにしてしまう
相談サービスは、公開してからが本番です。運用しながら改善し続ける前提で計画を立てることが大切です。
相談が終わったあとにも、相談員から「その後、いかがですか」とそっと声をかけられるアフターフォローの仕組みを置いています。相談は一度の対応で完結するとは限りません。終わったあとのつながりまで含めて設計しておくことで、サービスは“その場限り”ではなく“使われ続けるもの”になっていきます。
費用と進め方の目安
進め方は、大きく2つあります。
(1) 既存ツールでスモールスタートする
まずはフォームやチャットツールを組み合わせて、小さく始める方法です。対象や運用を試しながら確かめたい段階では、これで十分なことも多いです。
(2) 独自に開発する
相談者・相談員・運営者それぞれに必要な機能を、自分たちの運用に合わせて作り込む方法です。マッチングや深刻度の判定、データ集計まで含めて、安全に長く運営したい場合に向いています。
どちらが正解ということはなく、「いま、どの段階にいるか」によって最適解は変わります。大切なのは、いきなり大きく作らないこと。まずは前半でお伝えした5つの方針を整理し、必要最小限から始めて、運用しながら育てていくことをおすすめします。
なお、独自開発の費用感は、機能の範囲や内容によって大きく変わります。つくりばでは相談サービスの開発・改善を50万円〜のメニューでお受けしていますが、最初から見積もりありきで考えるより、「何を実現したいか」「いま何から始めるべきか」を一緒に整理するところから始めることをおすすめしています。
相談サービス立ち上げ前チェックリスト
対象者と、受ける相談・受けない相談を決めているか
同期型・非同期型・予約型のどれで始めるかを決めているか
相談員の募集・育成・ケアの体制があるか
深刻な相談のエスカレーション・リファー先を決めているか
個人情報の共有範囲・閲覧権限を設計しているか
相談データを何に使うかを決めているか
最初に作る機能と、後回しにする機能を分けているか
まとめ:機能より先に、方針を決める
相談サービスの作り方というと、つい「どんなシステムを作るか」から考えたくなります。けれど、長く続く相談サービスをつくる鍵は、その手前にあります。誰のどんな相談を受けるのか。同期か非同期か。相談員をどう守るか。深刻な相談にどう備えるか。情報をどう扱うか。この5つの方針を先に決めることが、結果として遠回りのない作り方になります。
つくりばは、ココトモ・未来地図という2つのサービスを自分たちで10年以上運営してきた当事者として、相談サービスやコミュニティの開発・運営を支援しています。これまで100社以上のご相談に乗ってきました。「何から手をつければいいか分からない」という段階でも大丈夫です。むしろ、その課題整理からご一緒できればと思っています。
相談サービスの立ち上げを検討中ですか?
私たち「つくりば」は、Webで居場所をつくる会社です。自社で相談サービスを10年以上運営してきた知見をもとに、相談サービスの開発・運営を支援しています。ぜひ私たちの支援内容をご覧ください。
つくりばについて知る